R&D
BACKGROUND
創業経緯
当社は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)にて開発された高速DNAシーケンサ技術の速やかな社会実装を目指し、主に細菌検査を対象とした食品・農畜水産・医療等の産業に活用できる新たな価値を付与した遺伝子検査システムの開発・製造・販売を行うために、令和5年7月19日に創業しました。
昨今の新興ウイルスによるパンデミックの脅威に対応、また身近な環境や食の安全、より安心な社会を実現するためには、迅速な病原体の現場検査技術の確立は喫緊の課題です。
特に、医療分野に着目すると、米国ワシントン大学による195カ国を対象とした過去最大規模の調査(Lancet, 395 (2020) pp.200)によれば、世界の死者の5人に1人が何らかの細菌やウイルスの感染によって引き起こされる敗血症が要因であり、癌を超えて死亡要因の1位であることが明らかとなりました。
敗血症は死亡率が約30%と高く、治療においては、診断後1時間以内の適切な抗菌薬投与が非常に有効であることが知られていますが、現在主流である細菌培養検査法においては数日を有し、迅速性において課題があります(図1)。
そこで、当社では起因菌を正確かつ迅速に同定することを目的として、これまでに開発実績を有する超高速ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システムを発展させ、測定開始から結果表示まで40分程度で敗血症などの感染症起因菌の迅速同定を可能にする世界に類の無い高速DNAシーケンサを主軸とする迅速細菌同定技術の開発と社会実装を目指して参ります。
当社の役員を務める2名は、産総研において長年にわたり当社のコア技術(マイクロ流路技術)の開発に携わってきた経緯を有しており、従来のPCR技術をベースに、産総研のコア技術を応用することで、これまで実現できなかった圧倒的短時間での遺伝子増幅と、そのターゲット塩基配列解析が可能な高速DNAシーケンサ技術を開発いたしました。

(図1)
技術開発
これまでの細菌やウイルス等の病気原因となる確定検査は、培養法やイムノクロマトグラフィー法の様な免疫測定法によるものが主流です。培養法が採用される最大の理由は安価であること、そして検出限界に優れ確実に検出できることです。ただし、培養法では結果の取得には数日以上を有し、増殖速度の遅い結核菌群などにおいては、培養に1ヶ月程度の時間を要するという課題がありました。一方、免疫測定法も比較的安価であり、さらに測定対象に依存するものの、5〜30 minで結果が得られることから迅速検査が可能であることに優位性が認められます。しかしながら、免疫測定法の検出限界は、原理上、病原体の捕捉に用いる抗体の結合能に依存するため、ウイルスを対象とした場合には約10,000個/アッセイ程度と低く、偽陰性の要因となる課題がありました。そうした中、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、すぐれた検出感度を示すPCR法をはじめとする核酸同定検査法に注目が集まり、誰もが知る確定検査法の一つとなったことは周知の通りです。しかしながらPCR法は、標的とする特定の遺伝子配列の有無や定量を可能とするものの、細菌同定におけるゴールデンスタンダードである培養法の様に、不特定の細菌の菌種を同定する用途には基本的に適していません。仮に検体の菌種をPCR法により特定することを想定した場合、想定した菌種毎に一つ一つPCRを行う必要があります。現実的にはPCR試薬を無数に用意しなければならず、コスト面の観点から現実的ではないことは明らかです。
これに対し高速DNAシーケンサは、様々な細菌が共通して持つ遺伝子(16S rRNA遺伝子)をPCRで増幅後、さらに、その増幅産物の塩基配列を正確に解読することができるため、既知の10,000種以上の細菌の遺伝子配列のわずかな違いも正確に特定することができます。この同定法は、既に細菌同定法として日本薬局方にも採用されています。既存のDNAシーケンサでは、PCRによる増幅を含め、分析に早くても6時間以上を要することから、培養法同様、迅速分析には適しておらず、研究(遺伝子解析)現場で活用されることが中心で、迅速性を求める食料品等の製造現場や医療診断の細菌検査用途などにおいて、高速なDNAシーケンサの登場が望まれていました。最も正確性に優れるサンガーシーケンス法において最大の課題であった検査時間、特に核酸増幅とサイクルシーケンスパートに要する時間を短縮するべく研究開発を進め、マイクロ流路を用いた核酸増幅技術において実績のある産総研チームによって実現した高速DNAシーケンサの技術は、食料品等の製造現場における細菌検査や、敗血症の早期診断、さらには薬剤耐性菌の判別など様々な用途への利用が期待できることから、今後は、高速DNAシーケンサの製品化に向けた装置開発を進めると共に、具体的なアプリケーション(活用シーン)にターゲットを絞って、様々な企業やユーザーとの事業提携体制を構築し、試薬キット等の開発並びに販売を計画します。また、細菌(16SrRNA)だけでなく、真菌に対してもITS1領域の配列解析を行うことで迅速同定も可能です。さらに、薬剤耐性遺伝子の配列解析を行うことで薬剤耐性遺伝子の変異から耐性菌の迅速検査にも展開が可能です。

